天職を見つける鍵はご先祖様の手の中に
天職がわからない…。
そう悩んだ時期があった。
だが、そのヒントは意外なところに隠されていた。
【切腹の覚悟】
その日、祖父は白装束で日本刀を握りしめていた。
時は、昭和初期。
場所は、母の生家である。
【狐憑き】
その日、祖母はお稲荷様を祀った神社へ参拝に出かけた。
子どもたちを連れて、夕刻の空を仰ぎながら帰路を辿った。
異変がおきたのは、自宅へ戻ってすぐのことだ。
まだ、若かりし祖父が厳しい声で叫んだ。
「離れの部屋にいなさい!妹たちを絶対に外に出してはならぬ!!」
普段、穏やかな父親の怒号。
ただならぬ様子に驚いた長女と次女が、妹たちを離れの部屋へ即し障子を閉めた。
5人姉妹と父母で賑わう居間の日常は消え去り、張り詰めた空気が漂う。
そこには、白装束を纏った祖父と獣と化した祖母がいた。
幼かった母に、その時の記憶は無い。
だが、後に姉たちから語られたのは、母から発せられる獣臭と呻き声だったという。
居間の障子には、三角形の耳を生やした祖母の影が映っていた。
どれくらい時間が経っただろうか。
祖母が凶暴化した折には伴侶を殺害し、自身も切腹しようと決心していた祖父が畳の上に刀をそっと置く。
傍には、愛する妻が横たわっていた。
その表情は穏やかで、微かな寝息を立てている。
祖父の気迫に負けた獣が、祖母の身体から出ていったのだ。
気がつけば、空が白んでいた。
【異空の地】
母の家系は、霊障体質だ。
そのことを知ったのは、とある観光地を訪れた時のことである。
その土地は、全国の市町村で最も面積が広いとされている。
だがしかし…。
いくら歩いても、目的地に辿り着かないのはさすがにおかしい。
道に迷った私たちは、待ち合わせをしている先方に何度も入電したが、一向に受電する様子がない。
そろそろ足が棒になってしまいそう。
諦めて帰ろうか。
母と言葉を交わし顔を上げた時だった。
目の前に、今までとは違った景色が広がった。
私たちは、今までどこを彷徨っていたのだろうか。
視線を巡らせると、通りの向こうで待ち合わせた人物が大きく手を振っている。
見えない何かに翻弄されたと気づいたのは、その時であった。
母と私は、異空間の迷いから解放された安堵感から、大きく手を振り返した。
【誰かいる】
だが、不思議なことはこれだけで終わらなかった。
その夜、母と私が泊まったのは市内のホテル。
部屋は和室であった。
二組隣り合って敷かれた和布団の枕と壁の距離は15センチほど。
人の通れる隙間は無い。
だが、ウトウトとまどろみ始めた頃、頭上で足音が聞こえた。
ザシュザシュザシュ…。
畳をずるような足音。
母がトイレにでも立ったのかと思い、隣の布団を見ると視線が合った。
私たちは、心の声で話す。
「誰かいるね。」「うん。いるね。」
枕元を誰かが歩いている。
わずか15センチの隙間だ。人が歩けるスペースは無い。
身体を持って宿泊しているのは母と私の2人。
だが、その部屋には確実に私たち以外の誰かがいた。
【未来の預言者】
「数十年後は、ガソリン以外で車が走るようになるよ。」
「車は、事故が起きないようなアシストが装備される。」
これは、父の言葉である。
時は昭和。
まだ、電気自動車もAEBSも一般には普及していない時代である。
父は、医療人だ。
いったい、この車両にまつわる情報を誰に聞いたのだろうか?
あの言葉を聞いてから、数十年。
世の中には、衝突被害軽減ブレーキを搭載したハイブリット車が走っている。
令和になってから、情報の出どころを父に尋ねてみたが澄ました顔であった。
どうやら、その秘密は娘の私にも明かせないらしい。
幼い頃の私は、父の不思議な力を自然に受け入れていた。
だが、大人になってから思い返した時に、それはだいぶ特別なことなのだと気づいたのである。
【天職の鍵】
2人の愛の結晶が私である。
私が、占術家として神に仕える身となったこと。
なんだか、妙に納得してしまうのである。
両親から授かった特殊な能力は、キャリアコーチとして相談者様の強みを発掘するのにも大いに重宝している。
天職を見つける鍵は、ご先祖様が握っているのである。